災害時に避難などを呼び掛ける防災行政無線の屋外放送がこだまのように重なって聞き取りにくくなる現象を解消し、鮮明な音声で伝えられる自律型音響制御システムを苣木(ちさき)禎史千葉工業大教授(音響情報学)のグループが開発した。こだま現象は熊本地震でも情報伝達の障害になった。防災行政無線は高齢者を中心にニーズがあり、早期の製品化を目指している。
熊本地震で「こだま現象」
防災行政無線は都道府県や市町村が整備。熊本県では、屋外スピーカーを備える「同報系防災行政無線局」が約1650カ所ある。
放送は各所から一斉に流すため、複数から音が届く場所では聞き手との距離に応じて音がずれる。熊本地震では、こだま現象を含めて「聞きづらかった」との声が、熊本県菊池市の44件など多数寄せられた。
一部の自治体は、こだま現象を生みやすい隣接地域では同時に流さない防止策を取る。ただ、内容が数十秒に及ぶと、情報の入手で被災者間に「時間的格差」を生む欠点があった。
苣木教授は昨春まで勤めた熊本大の大学院准教授時代、放送者が発した文章を細かく分け、文節単位で各スピーカーから順に流した方が時間的格差を軽減できると着想。例えば「地震の発生により避難所を開設しました」を2カ所のスピーカーで流す場合、(1)地震の発生により(2)避難所を開設しました−に文章を区切った上で、(1)を2カ所で交互に放送した後、(2)を同様に流すシステムを開発した。
システムは自動音声認識技術を活用し、放送者が発した文章を瞬時に文節で区切り、音声データで保存。こだま現象が予測される場所のスピーカーに限り、ほぼリアルタイムで放送を始められるようにした。製品化には既存の設備を利用でき、1カ所当たり約10万円を見込む。
苣木教授は「伝達に影響する建物などの障害物も感知して放送できるよう精度を向上させたい」と話している。