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私はナンバー7ごときに殴られた

2017年04月23日 03時00分 更新

記者:吉武和彦


  • C群ナンバー7だったワイヤー(高崎山自然動物園提供)

  • 伝説のボスとして人気を集めた「ベンツ」
    1978年生まれと推測される。87年に最年少の9歳で当時所属していたB群のボスになったが、90年に好きな雌を追ってC群に移籍。2011年にC群でもボスになった。13年9月1日で推定35才(人間なら約110歳)となった後、行方不明に。失踪1カ月となった14年1月、園が「死亡」と判断した。

  • C群ボスからB群に移籍したオオムギ

 スタッフからまさかのカウンターキックを浴びたベンツが山に逃げて、辺りは静かになった。
⇒【前回】「伝説のボスザル」ベンツに見たトップの器

 15年前。野生ニホンザルの餌付けで知られる高崎山自然動物園(大分市)で初めて起きた抗争“事件”の取材で、私は園スタッフに案内され、餌場に足を踏み入れていた。園によると、1953年の開園以降、これを最後に「後にも先にも抗争は起きていない」という。

 最大派閥A群(当時約770匹)を単身で壊滅に追い込んだC群(同660匹)ナンバー2のベンツはその後、ボスに昇格。これで、B群(同450匹)時代を含め、異なる二つの群で唯一、トップの座を制した「伝説のボスザル」として知られるようになった。

 そんな大物さえ人間の前では歯が立たなかった現実を目の当たりにしたためか、餌場に降りてくるサルはほかにいなかった。

 ところが、少し離れた塀の上に、1匹の小さな赤ちゃんザルがいた。群から取り残されたからか、小刻みに震えているように見えた。

 目がくりくりしたかわいい姿をカメラに収めようと、レンズを近づけた時だった。

 ドンッと、いきなり背中に衝撃が走った。振り返ると、1匹の大きなサルが「ギーッ」と歯をむいていた。ベンツではない。新手だ。白っぽい毛並みに、顔の赤さが引き立つ、妙に迫力のある雄ザルだった。

 「ナンバー7です」

 スタッフが言った。

 なんと、私はそんな下位のサルから殴られていた。理由も分からず、戸惑っていると、サルはそのままきびすを返し、逃げた。その隙に、赤ちゃんザルも姿を消していた。

 殴られた理由をスタッフに聞くと、「雄は群の子どもを守るんです」と教えてくれた。

 私が襲うとでも思ったのか。あのベンツさえ人間から逃げたというのに、ナンバー7はリスクを冒して子ザル救出に山から下りてきたようだ。

 ■ボスまで“寝返った”組織の衰退

 名はワイヤーという。

 体の一部にワイヤが巻き付けられていたのをスタッフが山で発見。ピーナツで誘って捕獲し、外してやったのが名前の由来だ。

 C群に入ったワイヤーはけがが治った後、めきめき頭角を現した。気が荒く、けんかになると前に出て行くタイプといい、スタッフたちは「将来は群のボスに」と期待を寄せていた。

 ところが、ワイヤーは謎の失踪を遂げる。これが、結果的にC群にとって、貴重な“人材”を失うことになる。

 園によると、今、山では「異変」が起きているという。

 かつては、群に1匹でも他の群のサルが入ってくると、途端にけんかが始まった。ところが、今は黙認し、「群と群の境が曖昧になっている」というのだ。

 最大の理由が、C群の衰退。ベンツ亡き後、力が急速に弱まり、B群が勢いづいた。けんかが起きないのは、C群が争いを避けているためだ。

 ベンツの後継は側近のゾロメ。さらにその後を継いだオオムギは、「群に何かあっても真っ先に逃げる最低な男」(スタッフ)。ついには、攻勢を仕掛けるB群に移籍し、最下位から出直す道を選んだ。

 ボスまで“寝返る”という一大事の中、組織再建を期待されたのが、ナンバー2のブラック。4月6日にボス就任が確認された。

 体が大きく強いサルだが、いかんせん、ナンチュウ率いるB群とは組織力の差が明白だった。

 小競り合いが始まると、B群はボスに続き、2〜4位と7位の幹部勢が一斉に出撃。対するC群は、3位のバロンが助太刀するものの、基本的にブラック1匹の孤独な戦い。多勢に無勢で逃げ回るしかないという。

吉武和彦(よしたけ・かずひこ)<br />
1971年7月生まれ、北九州市出身。大学を卒業後、福岡市の月刊経済誌を経て、1999年9月西日本新聞社に入社。経済部、宇佐支局(大分県宇佐市)、経済部、東京報道部、北九州本社編集部から、2015年8月にqBiz編集長に。「ガラケー」を使いこなすが、今回の異動を機にスマートフォンの練習を始める。









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