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元記者ピロシの醤油屋今日談

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「じゃあ、あとよろしく」そして逆噴射 醤油屋今日談(2)

2018年01月26日 03時00分 更新

記者:川崎弘氏


  • うどんやラーメンに使われる業務用の醤油を詰める1斗樽がずらりと並ぶ工場の敷地

  • 川崎弘(かわさき・ひろし)氏
    1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。



 記者から醤油(しょうゆ)屋に転職して4カ月。醤油や調味料を作る工程にはいろんな作業があり、機械の操作や段取りなど覚えなくていけないことも多い。最近は一人で任されることが増えてきたが、こんな作業もあるのかと驚くことことがたびたびだ。

 中でも、醤油屋であることを痛感した作業がある。その名も「樽(たる)詰め」。お得意様であるうどんやラーメンのお店で使われている業務用の醤油を、プラスチック製の樽に注入する仕事だ。

 樽の大きさは1斗(18リットル)か2斗(36リットル)で、一度に詰める数は100樽程度。効率を高めるため、醤油は工場の2階にある10石(1800リットル)前後の巨大なタンクから配管を通って1階まで流れ落ちる仕組みで、作業場の蛇口を開けるとゴムホースの先から猛烈な勢いで醤油が噴き出すようになっている。

 1斗樽は1分足らずで満杯になる。その間に、注ぎ終えた樽のふたを閉め、2、3メートル離れたところに並べ、次の樽を用意した上で、満杯になるタイミングでゴムホームの先っぽを両手でギュっと折り曲げて噴出を止めなくてはならない。体力も神経も使うハードな仕事だ。

 最初にやり方を教えてくれた先輩は、液面がふたギリギリのところで見事に注入を止める華麗かつ無駄のないデモンストレーションを披露。そして「じゃあ、あとよろしく」と言い残して、どこかに行ってしまった。
 
 さて、ピロシの出番だ。恐る恐る蛇口を開いて液面を目で追っていると、あっという間に樽の注ぎ口から吹き出し、ズボンにかかった。ホースの直径は3・5センチだが、注ぎ口の穴は4センチしかない。タイミングが遅れると、5ミリのすき間から漆黒の液体が容赦なく逆噴射するのだ。

 力加減が分からないうちは、暴れるゴムホースを押さえようと必死になればなるほど、無駄な力が入り、メガネや鼻を何度も襲われた。作業を終えたときは下着まで醤油でびしょびしょになっていた。

 全身が醤油まみれになるなんて、もちろん人生初。雨の日にラグビーの練習をした(鬼の顧問にさせられた)高校時代の部活を思い出した。ロスを出すのは良くないが、自分は醤油屋なのだと妙な充実感がこみあげてきた。

 家に帰り、妻に「きょうはパンツまで醤油まみれ」と報告した。ねぎらいの言葉を期待していたが、返ってきたのは「じゃあ、家が汚れるから(服は)お風呂で脱いでね」の一言だった。
 
 どうやら、まだまだ修行が足りないようだ。先は長い。










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