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元記者ピロシの醤油屋今日談

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ピンチかチャンスか、風雲急を告げる取引先のM&A 醤油屋今日談(8)

2018年04月20日 03時00分 更新

記者:川崎弘氏


  • 来年で創業から120年を迎えるわが社。さてさて、どうなることやら…

  • 川崎弘(かわさき・ひろし)氏
    1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。



 「風雲急を告げる」とは、こういう状況を言うのかもしれない。

 先日、大口の取引をいただいている飲食店チェーン様が、M&Aによって経営母体が変わったことを、とある新聞で知った。創業時から40年以上ご愛顧いただいているお店で、新体制の下、広域展開を視野に入れられているという。

 「広域展開」と聞き、一瞬ほおが緩んだ。お客さまの店舗数が増えれば、取引も増える可能性があるからだ。しかしその直後には「これは大変なことになるかも」と予感が走った。

 広域展開となれば、従業員20人程度の規模であるうちでは賄えない量になるかも…。賄えない場合は、販路が一気に大手に変わってしまうのでは…。まさにピンチとチャンスが同時に到来したような感覚だ。

 これはヤバイと思い、過去の販売データを調べてみたが、正確な数字が分からない。取次店を通して配達しているため、重要なお客さまでありながら、手元にデータを集めていなかったのだ。

 これでは対策の打ちようがない。すぐに取次店と連絡を取り、ミーティングの場を持って驚いた。なんと会社全体の売り上げの1割前後が、この飲食店チェーン様との取引で占められていたのだ。九州北部にある全店舗で、複数の銘柄の醤油を使ってもらっているという。

 経営者が変わったタイミングで、納入業者や商品の単価が見直されることは、よくある話。取次店の担当者も「今後、どうなるのか」と戦々恐々とした表情だ。M&Aから日が浅いので、まだ動きはないようだが、新経営陣の方々がどのような舵取りをされるのか。しばらく目が離せない日々が続きそうだ。
 
 最近、あるうどん店に、注文の品を送り忘れるミスが起きた。そのお店では醤油が切れてしまい、店を急きょ閉め、作りかけのだしも全部捨てたという。

 お詫びに行くと、再発防止を念押しされた後、店主の口から「別の醤油を使うと味が変わってお客様が離れてしまいかねない。おたくの醤油が切れたら、いっそ閉めた方がマシ」という言葉が飛び出した。バットで殴られたような衝撃を受けた。

 規模の大小にかかわらず、飲食店と醤油屋は一心同体なのかもしれない。食を通じてお客さまに喜んでもらうことへのプライドが、仕事へのモチベーションの源泉にあるという意味において。

 先が読めない状況に不安はあるが、このプライドだけは失ってはいけない。それを仕事で形にしていこうと、自分に言い聞かせている。










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