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直木賞の受賞会見でモヤモヤ

2018年08月02日 03時00分 更新

記者:川口安子


  • 川口安子(かわぐち・やすこ)長崎市生まれ。2006年入社。文化部、佐世保支局、都市圏総局、社会部、小郡支局を経て、2017年8月から東京支社。支社でただ1人の文化担当として、文芸、美術、映像、演劇などなんでも取材しています。

 記者にとってはキビシイ時代になった。記者会見のインターネット中継のこと。どんな記事を書くかだけでなく、どんな質問をするか、リアルタイムでたくさんの人に観察されている。

 記憶に新しいのが、7月18日に行われた直木賞の受賞会見だ。

 「忙しい子育ての合間を縫ってどんな時に執筆活動をしているんですか?」「旦那さんの一番好きな料理は何ですか?」

 受賞が決まった島本理生さんに対して、子育てや夫についてばかり尋ねるテレビ局のアナウンサーの質問に、ネット上で批判が相次いだのだ。

 「絶対本読んでないな」「作品の話せーーー!」。生中継するネット番組では、作品について質問しない記者たちに対する批判コメントが次々と流れていた。

 これについては言い訳もある。芥川・直木賞は多くの場合、候補者たちへの事前取材会があり、作品については既に十分な時間をとって話を聞いている(もちろん誰が受賞するか分からないので全候補者について事前に取材し、予定稿を用意することが多い)。

 だから当日に欲しいのは、受賞者の人となりを伝えられる”生”の情報になる。どんな気持ちで連絡を待っていたのか、会見に着てきた服はどんな思いで選んだのか。ありきたりな質問だけど、そこから思わぬ受賞者の個性が引き出されることがあるのだ。

 西日本新聞の場合、九州関係の作家が受賞すれば地元がらみの質問は必須。冒頭のテレビ局のアナウンサーは、子育て中の女性視聴者を意識してあんな質問をしたのかもしれない。

 それにしてもなぁ。一人の女性としては、たしかにモヤモヤが残る会見ではあった。男性作家ならこんなに家庭についての質問は出ないだろう。

 島本さんは夫も作家で、夫婦が力を合わせて家事を分担し、小学1年生の子どもを育てているという。受賞作「ファーストラヴ」は、小学生の子どもがいる働く女性が主人公。家事をこなし、急な妻の出張にも理解のある、いわゆる“イクメン”の夫が出てくるが、島本さんの実体験が基になっているという。

 ところが選考会では「こんな旦那はいるわけない」とリアリティーを疑問視する声もあったらしい。

 選考委員世代の女性の作家は、働きながら家事や子育ても一人で担うことが求められた。女性の作家が編集者を待たせて夫の料理を作ってきた時代からすれば、島本さんは「新しい女性作家」といえる。そしてそれがニュースになること自体、まだまだ女性と男性が対等に仕事と家庭を支え合うことは浸透していないのだなぁ、と実感するのだ。

 先輩記者によると数十年前は受賞者が女性というだけで珍しがられたという。数年後には島本さんのような作家の「スタイル」がニュースにならない時代になっていればいいなぁ、と思う。










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