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元記者ピロシの醤油屋今日談

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仮説<醤油は販路拡大に不向きである> 醤油屋今日談(27)

2019年01月11日 03時00分 更新

記者:川崎弘氏


  • 営業の朝一番の仕事はトラックへの積み込み。積み終えたら、荷台に何本載っているかを数えますが、いつも数が合わず一苦労してます

  • 川崎弘(かわさき・ひろし)氏
    1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。



 「営業」とは、お客さまを訪ね歩き、商品をより多く売ったり、販路を開拓したりする仕事のことを指すと思う。お客を奪ったり、奪われたりと、競合とのタフな戦いを日々繰り広げているイメージだ。

 うちの社内では、商品の注文取りと配達を「営業」と呼んでいる。大枠は世間のイメージと一緒だが、新規の顧客獲得より従来のお客さまに商品を届けることに軸足を置いているのが特徴だ。以前から薄々感じてはいたが、実際に営業担当の一員となって、やっぱりそうだなと改めて思う。

 もちろん、お客さまを新たに増やすのに越したことはないし、実際に増やすことがない訳ではない。ただ、大半の日は、なじみのある方に決まった商品を定期的にお届けするので精一杯なのだ。

 理由はいろいろ考えられるが、この1か月の営業の仕事を通して、<醤油はそもそも販路拡大に不向きな調味料>ではないかという仮説を抱いている。

 というのも、お客さま、特に一家の台所を取り仕切る奥さま方は、だいたい、「うちはこれ」という銘柄を一つ持っていて、ほとんど”浮気”をすることがないらしいのだ(あくまで聞いた話)。

 実際、「醤油が変わると料理の味が変わるから、ず〜っとおたくを使っている」と嬉しいお声をいただくことは少なくない。うどん屋さんも、醤油を変えることは滅多にないと聞く。ある業務用食材卸会社の課長さんは「あの手この手で売り込んでも、銘柄を変えくれる店はまずない。醤油の営業は意味がない」とまで言い切っておられた。

 これには、醤油そのものの味の違いに加え、醤油次第でほかの調味料の匙加減が変わってしまうこともあるとは思うが、そもそも醤油が料理に与える影響の強さが土台にあることは間違いない。

 スーパーに行くと、醤油コーナーには、1リットル100円台のものから700円に迫るものまで、幅広い価格帯の商品が並んでいる。普通なら安い方に人気が集まりそうだが、値段の高い方が棚からごっそり減っている場面を時々見かける。値札を見ずにお決まりの銘柄を手に取る人が多いことの現れだと思う。

 だからこそ、大手や中堅など多くのメーカーがひしめく中で、うちのような小所帯の会社が生き残ってこれたのかもしれない。しかし、裏を返せば、競合する会社のお得意さまを奪うのは困難、ということ。<醤油は販路拡大に不向き>という仮説も、ここから来ている。

 守りは易いが攻めに難あり――。営業担当になって1か月。醤油の奥深さを日々肌で感じている。










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