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元記者ピロシの醤油屋今日談

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独り立ち。20年ぶりの弁当生活。そして・・・ 醤油屋今日談(29)

2019年02月08日 03時00分 更新

記者:川崎弘氏


  • お昼の楽しみを与えてくれる日の丸弁当。誕生日プレゼントにもらったわっぱの容器でおいしさ倍増!!

  • 川崎弘(かわさき・ひろし)氏
    1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。



 良くないことは続く。前回、トラブル続きの話を書いたら、今度は拙コラムを掲載している「qBiz」のサイトが3月末で終わることになった。記者だった時から執筆にかかわり、新聞の新しい形を模索してきただけに、寂しさと無力感を覚えた。紙媒体の存続が危ぶまれる中、これまでのチャレンジが、インターネット上で報道の場を形作る際の糧になっていけばと願う。

 ありがたいことに、拙コラムの心配をして頂く方がおられ、励みになっています。4月以降も何らかの形で書くことは続けていくつもりです。いずれにせよ残されたのは今回を含め4回。これまで通り、醤油屋生活の日々を切り取っていこうと思います。

 39歳の誕生日を迎えた翌週の1月28日。とうとう、退社した前任者を引き継ぎ、一人でお得意様先を回るようになった。朝から夕方まで、1.5トンのトラックで20、30軒を訪問している。広い駐車場を備えたスーパー、昭和の匂いがする個人商店、飲食店や酒屋さん、そして個人宅など、形態はさまざまだ。一日の走行距離はだいたい100キロを超える。

 注文を取り、商品を渡し、お代を受け取ることの繰り返しだが、支払いを一か月まとめて行う大口の方もいれば、手書きの伝票や領収書が必要なお客さまもおられる。バックヤードの在庫管理をこちらに一任されていたり、留守の時に商品を置く場所を指定されていたりするところもあり、けっこう煩雑だ。

 お客さまとの信頼関係づくり、売れ行きの見極め、販売促進の工夫など、やらなくてはならないことは膨大にあるのだが、いま、一番苦労してるのは「道」である。慣れないトラックで地理が分からない場所を走っていると、「どこかにぶつけないか」「目的地にたどり着けるのか」という2つの不安に同時に襲われる。

 そんなストレスから一時解放されるのが、昼食の時間だ。ありがたいことに、外回りをするようになってから、妻が早起きをして弁当を作ってくれるようになった。高校の時以来、20年ぶりの弁当生活である。

 昼時になると、キリがいいところでトラックを停め、NHKのラジオを聴きながら運転席で一人で食べている。昔は外食や販売されている弁当がけっこう好きだったが、最近はなぜか、持参した弁当をこの上なくおいしいと感じるようになった。

 おかずは前日の夕飯と同じで、しかも冷めているのに、温かいコンビニ弁当より食欲が湧く。どんな味がするのか、という食べる前のワクワク感が外で買った弁当より格段に高い。料理上手の妻が自分のために作ってくれた(盛り気味?)という部分を除いても、手弁当には手弁当にしかないおいしさがあると実感している。同時に、高校の時はその味を分かっていなかったことに思い至り、毎日、出勤前に作ってくれていた母親に申し訳なく思っている。

 訪問先のお客さまとの間では、家庭で醤油を使う量が減っていることがよく話題になる。核家族化、共働きの増加、外食・中食の充実などで、家庭で料理をすることが減っているためと思われる。最近の売れる調味料のキーワードは「時短」だ。

 半面、手料理ならではのおいしさを味合う機会が減るのは、もったいなく感じられる。おいしさの尺度は人それぞれで、料理の過程を外に委ねてしまうことは、日々の楽しみを得る機会を失っているのかもしれない。そして、そういう感覚やニーズを広く共有することができれば、醤油屋の可能性は広がっていく気がしている。

 おっと、いつの間にか手前味噌な話になってしまいました。今回はこのへんで。










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