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元記者ピロシの醤油屋今日談

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現場で直面している「人口減」という正解のない問題 醤油屋今日談(30)

2019年02月22日 03時00分 更新

記者:川崎弘氏


  • 日田市の山合いを走る配達用のトラック

  • 川崎弘(かわさき・ひろし)氏
    1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。



 「団塊の世代」という言葉を世に広めた作家の堺屋太一さんが亡くなった。生前のインタビューで、これからの日本が抱える最大の課題は「少子高齢化と人口減少」と明言する様子がテレビで取り上げられていて、共感を覚えた。商品を配達をしながら、毎日のようにこの現象に直面してるからだ。

 醤油や味噌を配達する商習慣は、少なくとも戦後間もない時期にはかなり広がっていたようだ。道路が整備されていない地区では、4斗樽(容量72L)で醤油を配達し、集落や近所の人で分け合ってもらっていたと、お客さまが教えてくれた。個人宅を定期的に回り、配達料を受け取らずに商品を届けるシステムは、ほかは置き薬くらいしか思い浮かばない。

 醤油1本からご注文を承るので、お客さまには感謝して頂けることもしばしばだ。ご不在の時は、商品やお釣りを置く場所を決めている家庭もあり、会社への長年の信用を感じる。

 ただ、スーパーやディスカウントストアが増え、宅配の必要性が薄れてきたためか、お客さまの大半は60代以上。80歳を超える方も多い。一人暮らしでも自炊をされる元気な方もいらっしゃるが、病院や福祉施設に入ってお留守が続いたり、耳が遠くて会話が難しい方は少なくない。さまざまな事情で配達を止めることも珍しくなく、配達先は減少の一途。今の形でいつまで続けられるのか、時々不安に襲われる。

 いま住んでいる日田市と福岡県田川市を結ぶ鉄道、JR日田彦山線の一部区間では、一昨年の豪雨で線路が寸断され、復旧の是非が議論されている。前職の時に田川、日田両市に住んだことがあり、かつJR九州さんの取材も担当した経験があるため、興味深くウオッチしているが、この問題も根底には人口減少が横たわっている。多くのインフラが直面しているテーマで、その中には、線路の廃線に反対している沿線自治体が運営する水道網も含まれると思う。

 わが社の商品配達も、広い意味で言えば、インフラの末端に当たるかもしれない。いや、末端の末端の末端くらいか。程度はさておき、山間部の車を運転しない方などに醤油・味噌を配達することに、わずかながらの社会的な意義はあると思う。

 人口減少と高齢化が急速に進むのは、団塊の世代が後期高齢者になる2025年以降と言われる。胃袋の数が減り、現状のままでは業績の維持が困難になる中で、自社が果たすべき社会的役割が何なのか、これまで以上に問われる時代が6年後に迫っている。

 本稿を書いていて、記者時代のある鉄道マンとのやり取りを思い出した。「『地方の線路はいらない』と本心で思っている鉄道マンはまずいない。それが鉄道員(ぽっぽや)の魂です。でも、それだけだと『今のままでいいのか?』という問題から目をそらすことにつながってしまうのかも」
 
 これまでにない事態に向き合うのは、正解のない問題を解くようなものだと思う。結果的に間違ったとしても、真正面から向き合うことで次の道が開けるのではないかと思っている。










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