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「福岡シフト」するローファーム 鼎談(上)〜最大手福岡トップと地場大手代表

2014年12月19日 03時00分 更新

記者:川合秀紀


  • 西村あさひ法律事務所福岡事務所長の尾崎恒康氏

    北九州市出身。ラ・サール高校、東京大卒業後、1996年検事に。福岡地検、東京地検特捜部、法務省、総務省などを経て2005年に退官し、弁護士登録。08年に西村あさひ法律事務所パートナー弁護士。

  • 森・濱田松本法律事務所福岡オフィス代表の信國篤慶氏

    福岡市出身。ラ・サール高校、東京大卒業後、2001年に弁護士登録。訴訟・紛争解決のほか、倒産・事業再生、M&A、企業再編などに詳しい。

  • 明倫国際法律事務所代表の田中雅敏氏

    山口県出身。慶應義塾大卒業後、1999年弁護士登録、2001年弁理士登録。2010年、福岡市・天神に前身の明倫法律事務所を設立。総務・人事、法務、特許、倒産処理などが専門。「弁護士地財ネット九州・沖縄地域会」の代表幹事も務める。

 多くの弁護士を擁し、M&Aや事業再生、海外進出、危機管理など企業の課題解決をサポートする東京の大規模法律事務所「ローファーム」が最近、相次いで福岡に“進出”している。

 「国内4大事務所」のうち、最大手の西村あさひ法律事務所(東京、弁護士約500人)と、森・濱田松本法律事務所(同、約400人)は昨年、それぞれ福岡事務所を開設。長島・大野・常松法律事務所(同、約320人)も今月、福岡市の事務所と国内では初めて業務提携した(記事はこちら)。一方、陣容を拡大して注目を集める地元事務所も登場している。いまなぜ「福岡シフト」なのか。そして地場企業はどうローファームを活用すべきなのか。

 このほど、西村あさひ法律事務所福岡事務所長の尾崎恒康氏、森・濱田松本法律事務所福岡オフィス代表の信國篤慶氏、地場最大手に成長した明倫国際法律事務所(福岡市、15人)代表の田中雅敏氏3氏による鼎談を行い、ざっくばらんに思いを語ってもらった。計1万字の詳報を2回に分けて掲載する。


■■■

福岡の案件、増えていた


 ―まず、事務所全体と福岡拠点の概要を教えて下さい。

 尾崎氏「当事務所は弁護士約500人、スタッフ含め1000人を超す日本最大の事務所です。国内に4拠点、海外に8拠点あり、福岡は東京、大阪、名古屋に次ぐ拠点として昨年7月に開設しました。弁護士3人でスタートしましたが、その後米国法弁護士を含め2人を増員しています。『アジアナンバーワンの事務所』を目指し、海外でも北京を皮切りに拠点を積極的に展開し、日本企業がアジア進出する際のリーガルサポートを手掛けています。なぜ福岡かと言うと、大阪、名古屋の後でどこに開設するかと考えたときに、『福岡しかないだろう』と。福岡には上場企業だけでも80社程度あって、九州では百数十社あります。非上場でも元気が良くアジア進出に関心の高い企業も多いこともあり、開設を決めました」

 信國氏「当事務所には弁護士約400人、スタッフ含め約800人います。海外では約20年前に日本の事務所では初めて北京に開設しました。シンガポールとミャンマーなどにも出し、さらに拠点を増やす予定です。国内には3拠点ありますが、東京以外では福岡が第1号でした。マンパワーや専門性が必要な場合、もともと福岡の企業から依頼されることが多く、わざわざ東京に出てきていただいていたんです。福岡は経済規模も大きく、最近は複雑な案件の依頼も増えていました。『拠点開設を』というニーズが最も高いのが福岡で、顔を合わせて直接コミュニケーションを取ることが重要なので福岡に開設した次第です。私自身、福岡市出身ですし、いずれ福岡でやりたいと思っていたので手を挙げてやってきました。福岡オフィスは弁護士2人でやっていますが、来年4月に1人増やす方向です」

 尾崎氏「私も『開設するなら福岡だ』ということで、同僚と2人で自ら(福岡開設の)資料を作り、パートナー会議(企業の経営会議に相当)でプレゼンしました(笑)」


 ―明倫国際法律事務所はどんな態勢ですか?

 田中氏「2010年に福岡市で設立し、弁護士は今月で15人になります。スタッフ含め約30人で、九州では最大規模ですが、皆さんに比べると、という感じです(笑)。海外には上海と香港、シンガポールにオフィスを開設しています。以前は、福岡の弁護士が『専門は?』と聞かれると、一般的には『いろいろやっています』と答えざるを得ない状況がありました。というのも、知財や倒産、海外進出をやっていると言うとそれ以外はやらないと思われ、経営が成り立ちません。でも『いろいろ何でも』を数人規模でやろうとすると中途半端になる。語弊があるかもしれませんが、診療所はあるが総合病院や国立病院は少なかったんです。でも九州には中小企業は40万社以上あり、GDPもちょっとした国の規模がある。その経済の中核を担う中小企業でも、知財でも海外法務でも契約法務でも、しっかりとしたリーガルサービスを必要とする企業はたくさんある。にもかかわらず、こういった中小企業が気軽に利用できるような、専門的なリーガルサービスを提供できる専門家が少なかったんです。だから九州でも提供できる分野に穴がない、中小企業にきちんとした専門サービスを提供できる事務所を作ろうと思ったんです。顧問先は開設当時は40社程度でしたが、いまは200社程度に増えています」


競争で緊張感、企業にはメリット


 ―西村あさひと森・濱田松本事務所は福岡に進出して1年以上過ぎました。手応えは?

 尾崎氏「手応えはかなりありますね。開設前は、当事務所の知名度もまだまだ低いなと感じていました。ですから、企業や自治体などいろいろなところに積極的に足を運んで進出の主旨などをお話しました。手探り状態で始めましたが、ようやく成果も出てきて、西村あさひがどういう事務所かということが浸透してきていると感じます。各社からも『(進出を)待っていました』『今まで福岡になかったのが不思議だ』と非常に歓迎していただいています。あとは、企業側も案件によって相談する事務所をうまく使い分けていらっしゃると感じますね。『選択肢』が企業側に増えたということではないでしょうか」

 田中氏「西村あさひさんは地元弁護士会の活動にも参加していろいろな情報を地元の弁護士に共有することで全体の底上げにつなげていらっしゃいます。うまくローカライズされているな、と思います。やっぱり経験などが全然違いますので」

 尾崎氏「私は北九州市出身ですが、現在4人の日本人弁護士のうち3人が九州出身ということもあり、地元に貢献したいという気持ちは強いですね。地元に溶け込むことはすごく大事なことだと思います。他の弁護士にもいろいろな活動に積極的に参加するように言っています」

 田中氏「九州に限らず地方ってやはり保守的なんです。『よそものが来た』『東京から来た』という感じで。そういう中で地元のためにやってくれようとして進出されたのかどうか、を企業側は見ているんだと思います」

 信國氏「この1年間を見ると、他の弁護士の方は(大手の進出は)ほとんど関係ないというか、割とニュートラルに受け止めて頂いている気もします。地方の中でも福岡はオープンマインドですし。本音は分かりませんが、少なくとも面と向かって嫌な顔をされたことはないです(笑)」


 《日本弁護士連合会によると、全国の弁護士数(会員数)は約3万4950人(今年12月1日時点)。福岡県内には1088人おり、都道府県別では東京(約1万6100人)、大阪(約4090人)、愛知(約1680人)、神奈川(約1430人)に次いで全国5番目に多い。最大手の福岡進出で競争激化も予想される》

 田中氏「地元で両事務所をライバルと見る弁護士はほとんどいないと思います。規模が違うし、提供できるものが違います。大きな事務所にしか提供できない業務もありますし、地元の事務所にしか提供できない身近なリーガルサービスもある。やっぱり役割分担でしょうね。クライアントのためには、いろいろな選択肢があって上手に組み合わせてもらう方が大事なわけですから。大手がやってきて嫌だなと思う人がいるとすれば、『リーガルサービス』の本質をはき違えているんじゃないかと思います」

 尾崎氏「私たちが進出してきたことでプラスの効果もあると思います。企業の方からは、顧問弁護士に質問しても、なかなか回答が返ってこないという声を聞くことがあります。あるいは、弁護士に怒られる、とか(笑)。弁護士は、あくまで報酬をもらってサービスを提供しているわけで、スピードと質、正確性が生命線と思っています。競争相手が少ない環境であれば、半ば安心感というか油断みたいなものが生じてしまう。そんな中に私たちのような『24時間眠らない』とか(笑)言われる事務所が出てくることによって、これではいけないという緊張感も生まれるんじゃないでしょうか。それは企業からするといいことですし、あるべき姿だと思います」


アジア進出、中小こそリスク管理を


 ―西村あさひも森・濱田松本も、そして明倫国際も、アジアを中心とした海外展開支援を主なサービスの一つに挙げていますね。地場企業側のニーズはいかがですか?

 信國氏「この1年、件数ベースで一番多かったのがアジア進出案件です。地域は韓国、中国、台湾、シンガポール、タイ、インドネシア、ミャンマー、カンボジアもありました。ほとんどがアジアです。中小企業からが多く、業種も小売りやホテル、不動産、建設などいろいろです。『何から手を付けたらいいか?』という一からのご相談や現地のパートナー企業探しの依頼、現地企業との契約チェックの相談もあります。もともと想定していた通りですね」

 尾崎氏「私も体感的にかなり多いですね。中小企業からのご相談が多いですが、進出予定先の法制度の調査依頼もあれば進出後のトラブル対応もありますし、撤退に関する相談もあります。本を読んでも分からないことでも、私たちのネットワークには情報のストックがあります。意外とすぐに解決につながる情報もあったりしますので、利用価値が高いのではないかと思います」


 《中小企業にとっては本当に有用な海外情報が限られるため、準備不足による失敗やトラブルも絶えない》

 田中氏「本当にそうだと思います。アジアが難しいのは、法律はおおむね整備されているがまだできたばかりで運用方法が決まっていないとか、行政の裁量の幅が広くて一定の法則はあるがどこにも書いていないとか。省令や判例など法の蓄積がまだ乏しいんです。例えば、数年前を知っているコンサルタントなどに聞いてもすぐに状況は変わるので役に立たない。そういう意味では法律事務所のネットワークや情報はアジアでは必要だと思いますね。当事務所では海外進出の相談は今年で200社ぐらい受けていますが、約8割がアジアです。ただ、ビジネスモデル作り、広く見ればリスク管理ですが、それが甘いことが多いです。九州の場合、商材が一つだけということも結構あります。営業秘密の管理や契約がきちんとできていないと、屋台骨をごっそり持っていかれるリスクが高い。当然知財や労務の管理もあります。大体こういう点が大事なんですが、おおむね抜けてしまっている印象があります」


 ―何とか成功しそうだ、というレベルで安易に進出しようとする中小企業が多いということですね?

 田中氏「ですから、契約書を結ぶ前に一つひとつ解きほぐすことをします。例えばその商材は日本でどれくらい売れているのか、海外に出るタイミングなのか。さきほど言ったリスク管理の点をどうクリアするか。そこをフォローして整理する作業をしないと大きくつまずいてしまいます。中小企業の場合、体力がないから失敗すると破綻してしまう。でもビジネスって成功することもあるけど失敗もある。私としては、海外に進出することが大事なのではなく、進出した上で継続して成功し、長く続いてもらって、その成果なり経済的利益や雇用、税収などが、いずれ九州に還元されることが大事だと思っているんです。大企業より中小企業の方が、リスクが顕在化したら致命傷になるという意味で、リスク管理が必要なんです」

 信國氏「中小企業にはそこにコストをかけられないジレンマもあるんだと思います。でも予防の面では必要だと思います。問題が起きてからでは遅いので。最低限のコストをかけていただいて、失敗の際のリスク管理をしてもらいたいと思います。例えば合弁契約を締結する際に、合弁解消や撤退のことをきちんと契約書に盛り込んでおくことはとても重要です」

 田中氏「あとは契約書を結んだがこれでいいかチェックしてほしいというニーズもありますね。私たちの事務所では今年7月から地場銀行と協力して、契約書の無料診断サービスを始めています。契約後でも何とかリカバリーできることもあります」


※鼎談(下)は22日(月)掲載予定。「弁護士と企業の距離」や「事業承継の実態」、「今後の目標」など、さらに突っ込んだやり取りを紹介します。











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