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秘密裏の「人道支援」、シリアの電力整備 外務省「事業ない」一転

2015年12月08日 03時00分 更新

記者:坂本信博、豊福幸子


 消される前の国連開発計画(UNDP)の公式ウェブサイトには、「シリアの電力部門支援」と題し、日本政府の資金提供によるアサド政権支配地域での電力インフラ整備の事業計画書や、UNDPと日本側との協定書の写しが掲載されていた。

 それによると、今年1月にUNDPと国際協力機構(JICA)が資金提供協定を締結し、日本のメーカーにタービンなどの予備部品の製造を発注。12月中にも日本の工場からシリアへ発送される計画となっていた。

 第1弾のジャンダール火力発電所には合計約25億円を提供するが、計画ではその後も、同発電所に加えシリア内のアル・ザラ火力発電所、バニアス火力発電所の補修・復旧事業について「必要性を査定する」と記されていた。この三つの発電所は、主に1980年代から90年代に日本が政府開発援助(ODA)で建設・増設したものだ。

 補修・復旧事業は、日本の商社と発電施設メーカーがJICAに発電所整備を持ち掛け、JICAがUNDPに提案したと、関係者は証言する。

   ◇    ◇

 シリアをめぐっては、アサド政権が反政府デモへの弾圧を強めた2011年5月、民主党政権が「緊急・人道的性格の援助を除き、経済協力を見合わせる」と表明。安倍晋三首相も13年8月、外遊先のカタールで「アサド政権は道を譲るべきだ」と退陣を求めた。

 本紙の11月16日の取材に、外務省国際協力局国別開発協力第3課の担当者は「シリア国内での支援は避難民への食料・医療提供などの直接支援だけで、電力インフラ整備の計画は一切ない」と説明。JICAも11月25日に「シリア国内では事業を一切行っていない」と口をそろえた。

 UNDPのサイトから、事業計画の情報が削除されたが、UNDP駐日代表事務所(東京)は本紙の取材に「ウェブサイトから消した理由は言えないが、事業そのものは存続している」と明言する。

 JICAはその後、「機微な政治情勢や治安状況などに鑑み、シリアにおける緊急・人道的性格の事業の詳細については公表を控える」と回答を変更。外務省も12月3日、「人道支援として、火力発電所の復旧はシリアにいる一般の人たちに必要不可欠との観点から行っている」と説明を一変させた。

   ◇    ◇

 電力は人々の生活に欠かせないインフラであり、困窮する人への人道支援という意味合いはある。一方で、食料や水、医療といった直接の人道支援とは異なり、電力インフラの補修・復旧はアサド政権の基盤を強化する結果ともなり得る。

 事実、計画が水面下で動きだしていた14年9月、アサド政権の強い影響下にある国営シリア・アラブ通信は、反政府勢力を「テロリスト」と呼び、アサド政権の電力大臣が「武装テログループが発電所や石油パイプラインを組織的な攻撃目標にしている」と述べたと報道。日本政府による発電所の補修は「全国の市民への電力供給を保障する」と歓迎した。

 日本国民が全く知らない中で日本政府とアサド政権の「接触」が進行している。


 ◆影響残すパイプは必要

 高橋和夫・放送大教授(中東研究)の話 米国や日本がアサド政権の退陣を求めるのは内政干渉で、国際法上問題がある。内戦から5年たってもアサド政権は倒れておらず、ロシアが肩入れした今となっては、もう倒れないだろう。米国も引っ込みがつかなくなっている中で、日本がアサド政権とパイプを持ち、影響力を残しておくことは悪くない。日本企業の営利目的の側面はあるが、国際援助はそういうものとも言える。電力支援の情報をオープンにできないことも、米国を刺激しないためには、ある程度理解できる。

 ◆送電先など条件付けて

 伊勢崎賢治・東京外国語大大学院教授(国際関係論)の話 シリアでの電力インフラ整備が人道支援に当たるかは、判断が難しい。市民生活や医療機関には電気が必要であり、人道支援とも言えるが、軍需産業や戦争にも電気は欠かせない。人道支援が目的なら、日本の資金で整備する発電所の送電先がどういう地域かを見極め、UNDPに資金提供する際には、病院や民間住宅に最優先で送電することなどの条件を付けるべきだ。単に予備部品を提供しておしまいにせずに、人道援助につなげる努力が必要だ。

 ◆紛争長引き政権延命も

 佐藤安信・東京大大学院教授(人間の安全保障)の話 日本の電力支援が、住民を虐殺しているアサド政権の基盤強化や延命につながり、結果として紛争を長引かせて、貧しい人や弱い人をさらに苦しめてしまう可能性は否定できない。電力が、武器を作るような大工場に流れるのは目に見えている。実際に人道支援に結びついているかどうかの検証が欠かせない。本当に人道支援と言うなら、外務省は税金の使い道について国民にきちんと情報を公開し、国会などのチェックを受けながら計画を進めるべきだ。


 ■シリア内戦混迷、難民増大

 内戦が続くシリアでは、アサド政権による武力攻撃で多数の民間人が死傷している。化学兵器の使用も問題となった。米国や英国、フランスなどはアサド政権の退陣を求め、日本も足並みをそろえている。

 シリアの反政府運動は、中東の民主化運動「アラブの春」の影響を受け、2011年3月から活発になった。これをアサド政権が武力で弾圧したため、子どもを含む死者が増加。国外へ逃れる難民が相次いだ。米英仏などは反政府勢力を支援している。

 これに対し、シリアと関係が深いロシアやイラン、中国、北朝鮮はアサド政権を支持している。

 シリアの一部では過激派組織「イスラム国」が台頭し、混迷が深まっている。米国を中心とした有志国連合は、14年9月からシリアのイスラム国拠点を空爆。ロシアも今年9月、イスラム国掃討を名目に空爆に踏み切った。

 関係国のアサド政権に対する立場の違いから、国際社会による内戦の解決には進展がなかったが、イスラム国のテロを背景に打開を模索する動きもある。11月にオーストリア・ウィーンで開かれた多国間外相級協議では、停戦・和平に向けた過程を協議。年内に政権と反政府勢力の直接対話を実現し、6カ月以内に「移行政権」を成立させる方針などで一致した。










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