サラリーマンを応援するqBiz新企画【サラリーマン道場】です。
脚光を浴びるロボットや人工知能(AI)には決してまねできないマンパワーを、パワーアップさせましょう!
ビジネススクール「グロービス経営大学院・福岡校」(福岡市)とタイアップ。教員たちが仕事の現場で役立つビジネススキルをご紹介します。(qBiz編集部)
■■■
今秋から急にYouTubeで500万回も閲覧されたピコ太郎の「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」は、その関連動画も含めると3億回以上閲覧されるなど、驚異的なブームを起こしている。独特のリズムでダンスをしながら、意味不明の歌を歌っているだけなのに、である。
そこで今回考えたいのは、「何が、そんなに多くの人の心に触れたのだろうか?」という問いだ。ここに、マーケティングの世界で言う「顧客インサイト」(消費者が購入しようと思うきっかけ)のヒントが秘められている。
そもそも、人々の関心を呼ぶには、その人の意識に認知されないといけない。
そのためには、日々刻々と膨大な情報を処理している脳に、何らかの価値を見いだしてもらう必要がある。そうでないと、その情報が意識に上ることすらないはずだ。だとすれば、何が脳にとっての「価値」となったのだろうか。
■「謎」の規則性に脳が喜ぶ?
そこで、私が注目したのは、二つの可能性だ。まずは、「無意味」ながらも、そこに、「ある種の規則性」が含まれている歌詞。
普通に考えると、「無意味」な情報は、「価値が無い」はずである。
ところが、今回はそこに「ある種の規則性」が加わったことで、脳が「価値」を認めた(=「脳が喜びを感じた」と解釈)可能性がある。歌詞には、以下のような規則性が含まれている。「パ」行の音である。それぞれ歌詞のワンフレーズに、1〜5個含まれている。こんな具合だ。
・「ペン」には1個
・「アップル」には1個
・「パイナップル」には2個
・「ペンナップル」には2個
・「ペンパイナップル」には3個
・「ペンナップル」と「ペンパイナップル」を組み合わせた「ペンパイナップルアップルペン」には5個。
そもそも「パイナップル」自体は「パイン」と「アップル」がくっついたものである。
そこで、脳内ではこんなことが起きているのではないだろうか。
(1)パッと聞いたところでは、歌詞自体に、意味が見いだせない
(2)一方で、規則性を感じる。よって「謎」だ
(3)「謎」なら解けた時の喜びが大きい
(4)よって、意識に知らせて、そこに含まれている意味をさらに解析させよう・・・
なんて具合に、「脳」が「価値」を見いだしたのかもしれない。
■「繰り返し」が「楽しさ」に?
次に、もう一つの可能性は、幼児期の記憶だ。
幼い子は、学習の過程で意味もわからず言葉を発する。すると、大人が喜んでくれるので、何度も繰り返すことになる。
結局、「繰り返す」ということ自体が、「楽しい」という記憶となり、繰り返された音を聞くと「脳」が喜び、意識に上るというメカニズムだ。
有名なところでは、ディズニー映画の「シンデレラ」にでてくる「ビビディバビデブー」。「ビ」行の音が繰り返されているし、日本でいえば、ちびまる子ちゃんのテーマソング「ぱっぱぱらりら」なんていうのもこの例かもしれない。
今回の「PPAP」ブームは、「謎ときの喜び」と「繰り返すことの喜び」を脳が「面白い」と感じ、関心を呼んだのではないだろうか。
すると、「理屈」ではなく、単純に脳が「面白い」と思うことが、人の関心をひきつけるきっかけになる可能性がある。
これを、マーケティングの世界で言うと、「顧客インサイト」は、「理屈」ではなく、脳が喜ぶかどうかという「感覚」で捉えることが重要ではないか、ということに結びつく。
仕事に追われる忙しい日常で、論理的な判断に明け暮れるだけでなく、いったん理屈を離れ、「脳を楽しませる」ことに時間を費やすと、新たなビジネスのヒントが生まれるかもしれない。
「PPAP」ブームは、そんな示唆を私たちに与えている。