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「宇宙食の基準」がお茶の間にも… 気が遠くなる細かさに挑む  醤油屋今日談(10)

記者:川崎弘氏
元記者ピロシの醤油屋今日談

醤油充填室の床掃除をする私。記者時代は、会社の掃除はほとんどしたことなかったが、いざやってみると、工場に愛着が湧くのを感じる

川崎弘(かわさき・ひろし)氏
1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。



 森友、加計学園、財務次官のセクハラ…。スキャンダルの影に隠れてほとんど注目されていないが、現在開かれている国会では、わが社にも大いに関係がありそうな法律が審議されている。

 その名も「食品衛生法等の一部を改正する法律案」。

 一言で言うと、食品の安全性を高めるため、食中毒や商品回収への対応を強化するための法改正だ。その中に、米国発の食品衛生の考え方であるHACCP(ハサップ)に基づいた衛生管理の義務化が盛り込まれている。

 食品の輸出やインバウンドの増加で、お茶の間の食品衛生にも国際基準が求められる時代になってきたことが背景にあるようだ(要するに、ここでも米国の言いなり?)。

 HACCPは元々、宇宙食のためにNASA(米国航空宇宙局)が開発した衛生管理のシステム。病院がないところで食べるのを前提としているだけに、徹底した理詰めで食の安全性を検証することが求められる。

 具体的には、ある食品を作る際に、使用する原材料と包装資材をすべてリストアップし、さらにその一つ一つについて、工場への搬入時から加工するまでの工程も列記する。さらに、各工程で、食中毒菌が増殖する可能性はないか、異物が混入する可能性はないか、食物アレルギー物質が入り込む余地はないか、などのリスクを検討。さらに、食の安全を守る上で特に大事な工程をあぶり出し、最終的に従来の作業が万全かを確認するーーという仕組みだ。

 消費者にとっては、当然のことかもしれない。実際、これまでの作業を見直す上ではいいルールだ。ただ、ざっくりと説明した上記で「さらに」を3回も使ったことからも分かる通り、とにかく細かくて理屈っぽい。

 わが社の場合、1商品当たり、だいたい100を超えるリスクについて検討が必要だ。しかも、売上に直結するわけではないのに、改善点が浮かび上がれば、設備投資のお金も必要になってくる。

 そのため、大手メーカーでは導入が進んでいるHACCPだが、中小企業の普及率は3割程度とされる。特に醤油や味噌のメーカーは、肉や牛乳より食中毒のリスクが低いだけに、足取りが鈍いようだ。人にもお金にも余裕がないこともあるが、そもそも醤油も味噌も、HACCPが生まれた米国より歴史が長い食品。ある意味、当然だとは思う。うちの社長も、朝礼でHACCP対応の必要性を説きつつ、「醤油、味噌はほかの食品とは別なんだけど…」と本音を漏らしたりもする。

 ただ、法改正が行われれば、百貨店やスーパーなどのお取引先さまからは、例外なくHACCPへの対応を求められる可能性が高い。対応できなければ、取引停止の恐れもある。

 ということで、ここ1週間はHACCP対応のための書類作成の日々で、工場の現場から足が遠のいてる。「病原性大腸菌O157は何度何分の加熱で死滅するか」「原料の成分には何が含まれているか」「ろ過に使う布の目の大きさは何ミリか」といった項目を一つ一つ調べたり、「万が一、自社製品で事故が起きた場合、どう対応するか」といった書類を作ったりしているが、残りが山ほどあり、気が遠くなりそうだ。

 とはいえ、いろんな知識が増えることで、普段の作業や掃除をする上で心掛けが変わってきたのは事実。意味や理屈が分かってくると、作業にも主体的に取り組めるようになる。いずれは設備の修理やが必要になるので、一気にとはいけないが、地道に取り組みながら、社内で意識を共有するところまで食品衛生のレベルを高めていきたいと思っている。

 さて、ところで肝心の法案はいつ衆院を通過するのやら…。
  



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