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【あなたの特命取材班】八女に九州一低い山? 隆起7メートルの「塚山」…実は標高106メートル

記者:津留恒星、久知邦

福岡県八女市黒木町の通称「塚山」を案内する情報提供者の男性。地面からの高さは目測7〜8メートルほどか

「日本一低い山」と表示されている大阪市の天保山。矢印の部分が山頂とされる。案内板がないと山には見えない(市提供)

「山」定義なく各地で日本一自慢

 「地元に7メートルほどの山がある。九州一低いのでは?」。福岡県八女市に住む80代男性から情報が届いた。国土地理院が発表している九州の主な山岳の中で、最も低いのは熊本県八代市の「白島」(標高19メートル)。情報が正しければ、10メートルも下回ることになる。特命取材班が現地を訪れてみると−。

 福岡市中心部から電車とバスを乗り継いで約1時間。男性と待ち合わせ、車で案内してもらった。20分ほど進むと道沿いに突然、こんもりと木々が生い茂る場所が見えてきた。確かに山にも見える。足場が悪く登れなかったが、目測で7〜8メートルだろうか。

 岩ではないかという気もするが、土地所有者の平田秀雄さん(87)は「山」と強調。地域住民の間で「塚山」と呼ばれ、長年親しまれてきたという。かつては階段や手すりが整備され、子どもたちの遊び場だったと話す。

 塚山が山だとすれば、福岡県で最も低いとされる「小岳」(同21メートル、福岡市東区)や白島を優に下回る。標高を調べることができる国土地理院のウェブ上のサービスを利用すると、その表示に驚いた。「標高106メートル」−。

 標高は東京湾の平均海水面を海抜0メートルとし、そこから山頂までの高さを表す。地面からの高さを測るだけでは意味がないのだ。案内してくれた男性に伝えると、がっかりした様子で「じゃあ日本一低い山はどこ?」とつぶやいた。

 最も高い山は言わずと知れた富士山(同3776メートル)だが…。そもそも山の定義って何だろう。

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 「明確な定義はありません」。国土地理院の担当者は即答した。古くから地域住民に山として周知され、親しまれていれば山なのだとか。標高や測量の有無も関係なく、極端な話、標高1ミリでも「山」と呼ばれていれば山になるという。

 国土地理院は、山の高さや低さについてホームページで示しているものの、「日本一」「九州一」といった認定はしていない。実際には、全国に「国土地理院認定」と称する「日本一低い山」が複数存在する。どういうことなのか。

 関係者の話では、国土地理院の技術専門員だった関義治さん(71)=茨城県=の研究が影響している。職員時代、好奇心で「日本一低い山」の調査を開始。「全国的に最もフェアな基準」で比べようと、国土地理院の2万5千分の1の地形図に掲載されているかどうかを重視した。

 1991年ごろに成果を発表した当時は、仙台市の日和山(標高6メートル)が最低山だった。その後、大阪市の天保山(同4・53メートル)が地元住民や自治体の要請を受けて96年に地形図に掲載され、首位に。2011年、日和山が東日本大震災による津波で標高3メートルまで削られた結果、再び最低山になった。

 天保山は現在「元祖日本一低い山」を掲げる。このほか、徳島市の弁天山(同6・1メートル)は「自然山として日本一」。関さんの発表を皮切りに低山論争が過熱し、「国土地理院認定」の一人歩きを招いたという。

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 標高0メートルという珍妙な山「大潟富士」も秋田県大潟村に存在する。海抜0メートル以下の干拓地を生かし、地面からの高さが富士山の千分の1である3・776メートルになるように、村が主導して95年に造られたという。「日本一」と宣伝しているが、地形図には載っておらず、関さんの基準に照らせばランク外になる。

 地形図への掲載には少なくとも、地元住民に古くから山として認識されている▽自治体が山の名前を把握して使用している▽自治体からの申請−という三つの条件を満たした上で、国土地理院が総合的に判断する。八女市の塚山は、自治体が把握していなかった。

 地形図にはない山も数多く取り上げた「ぶらり超低山散歩」などの著書がある福岡市の谷正之さん(60)は言う。「地形図は一つの基準にすぎない。地図にはない、知られざる低山を探し歩き、ロマンを感じてみては」



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