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空回りの1年。答えは風ノ中 醤油屋今日談(17)

記者:川崎弘氏
元記者ピロシの醤油屋今日談

工場の入り口にある木製の扉。だいぶボロボロで修繕が必要なのは、会社の姿を象徴しているようにも思える

川崎弘(かわさき・ひろし)氏
1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。



 前の会社を辞め、日田での生活を始めて1年がたった。今回はいつもと違ったトーンで、この間に直面した課題について書いてみたい。抽象的な話で申し訳ないが…。

 詳細は書けないが、働いている醤油屋は今、ある問題に直面している。けっこう難しい問題だ。入社して数カ月してその存在を知り、今年の年明けから「改善すべきだ」と社内で声を上げてきた。日々の仕事さえ覚束ない新人が、担当ではないことに意見を吐くのはリスキーだったが、それだけ重要なことだと思い、行動に移した。

 その後も、機会があるたびに朝礼などで話題にしてきた。真っ向から反論されたことはまだない。おそらく、このままではマズイということは、約20人いる従業員全員に理解してもらえていると思う。
 
 ただし、実際に変わったかというと、・・・。

 改善に乗り出せば、これまでの取り組みと矛盾が生じたり、悪影響が出たりすることが懸念されるためだ。僕自身は「それはしょうがない」と考えているが、人によって考え方は異なるのだろう。指示を出すべき社長も、なぜかだんまりを続けていて、結局、問題に蓋をしたままの状況が続いている。

 最近は、この件を持ち出すたびに、社内の空気が悪くなっていくような感じさえ受ける。問題を放置している状態が長期化し、諦めムードが濃くなっていくためだ。悪循環をどう打開すればいいのか。なぜ、自分の考えがこうも伝わらないのか。頭の片隅でずっと考えている。

 理屈は正しくても、情に訴える部分がないからなのか。改善後のビジョンが見えないからなのか。もしくは、新人なのに生意気だと思われているからなのか。単に人徳がないからなのか・・・。答えは「風ノ中」である。

 打開策を考えることは、社内での自分の立ち位置を考えることとも重なる。そして、こちらも風ノ中。なぜ答えが出ないのかさえも分からないまま、日々の仕事をこなしている。

 そんなこんなで、この1年、乗り越えられない壁の前で空回りを続けている。時々、自分が嫌になるとこともある。なんでこんなことしているのか、という思いが頭をもたげることもある。

 <智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい>

 夏目漱石の草枕の冒頭の一節が、頭の中でぐるぐる回る。
 
 ただ、同時に感じるのは、自分で選んだ道を自分の足で歩いている感覚だ。生きている実感と言えるかもしれない。みすぼらしいかもしれないが、むしろその方が自分らしいんじゃないか、とも感じる。その一点において、転職は間違いじゃなかったと、今は思えている(家計はだいぶ苦しくなったが・・・)。

 これから2年目に入る。この問題は、今後も自分の中で大きな部分を占めることになるだろう。他にもいろんな問題や悩みに直面するかもしれない。大変そうだと思いつつも、少しワクワクしている自分がいる。

 なるようになる。なるようにしかならない。今はそう信じて前に進もうと思っている。



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