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先輩のケガから垣間見えた思い。そして・・・ 醤油屋今日談(22)

記者:川崎弘氏
元記者ピロシの醤油屋今日談

仕事中に擦りむいて、笑いのネタになった僕の頭部

川崎弘(かわさき・ひろし)氏
1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。


 
 「指を挟んだみたい。病院に行かなきゃ」。ヒヤリとする声を聞いたのは、10月18日の昼下がりのことだった。

 社内で事務作業をしていると、工場の方が何やら騒がしい。なんと、勤務歴20年のベテランの先輩女性がラムネの製造機械に指を挟み、抜けなくなったという。

 慌てて事務所を飛び出した。先輩の指はすでに抜けていたが、巨大なミミズのよう赤く腫れ上がり、しかも機械の跡がくっきりと刻まれていた。先輩は「麻痺しているので痛みはあんまりないです」とどこか呆然とした表情で、出血も続いていた。

 すぐに病院に行ったが、切断には至らず、本当にホッとした。幸い骨折もなく、当初の心配は取り越し苦労で済んだ形だが、治療から帰ってきた先輩が申し訳なさそうに漏らした言葉が印象的だった。

 「私の指より機械が壊れなくてよかった」

 「そんなことないですよ」と返すのも相応しくない気がした。というのも、ラムネの機械は、充填や賞味期限の印字の工程がベルトコンベヤの流れ作業になっていて、5人一組で作業にかかる。もし機械が壊れると、製造本数が予定の数に達しないだけでなく、一緒に作業をしている他の4人も宙ぶらりんになってしまうのだ。

 「機械より体の方が大事」というのはもちろん正論。その一方で、「職場の仲間に迷惑をかけることだけは避けたい」という気持ちが先に立つのは、ある意味、美しい感受性だと思う。

 先日、女子駅伝の大会で、走れなくなった選手が地面を這って襷をつないだことが話題になったが、「和を以て貴(とうと)しと為す」という言葉を大事にしてきた日本人には特にその傾向が強いのかもしれない。

 ただし、けがをした人を前に「やっぱり、体より機械の方が大事ですよね」と言うのは間違っている。では、どういう声をかければよかったのか。いまだに答えが見つからないが、仕事への向き合い方が垣間見えた先輩の一言だった。

 ちなみに、それから数日後、壊れたボイラーの交換作業を手伝っていたら、高さが2メートルほどある新しい機械が地面の傾斜のせいで僕の方に倒れてきて、頭を挟まれてしまった。すぐに立て直すことができたが、擦りむいたところから少し出血した。

 心配した同僚が絆創膏を貼ってくれたのだが、あまりに間抜けな感じのためか、社内で笑いのネタになってしまった。

 けがをした時こそ、人の真価が問われるのかもしれない――。それを学んだということで、”けがの功名”と考えよう。



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