ようこそ ゲスト様

qBiz 西日本新聞経済電子版

九州の縮小は福岡の“危機” 地方で作って東京で売る、の間違い <最強の福岡で「九州バカ」論>詳報【前編】

2018年09月19日 03時00分 更新

記者:石田剛、岡部由佳里、福間慎一


 人口減少と高齢化がいち早く進む九州にこそ、明日を切り開く可能性がある――。村岡浩司さん、木下斉さん、木藤亮太さんという街づくりと「地元創生」のスペシャリスト3人を招いたqBiz主催のイベント「地方最強都市・福岡で考える『九州バカ』論」が9月7日、福岡市で開かれた。「福岡は明日も『最強』とは限らない」「衰退するところにいる偉い人は衰退を作った人」――。会場のコワーキングスペース「DIAGONAL RUN FUKUOKA」で繰り広げられたトークの前編をお届けする。(長いですよ!)

(左から)木藤亮太さん、村岡浩司さん、木下斉さん

 木藤:(宮崎・日南市の)油津で、起業家支援型の店づくりをする中で、飲食店・物販店などの他、東京から誘致したIT企業を商店街に入れていった。現在は商店街に10社のIT企業のオフィスが並んでいる。プロジェクトは一端区切りを迎え、現在は福岡に戻ってきている。

 村岡:元々は寿司屋。「一平寿司」という店で、父が50年以上も前に「レタス巻き」を初めて作った。父は修業時代に福岡にいた。て、僕自身は、父の跡を継いでから13年以上になる。高校を卒業してから米国に行って、学生起業したが最初の事業は28歳で失敗。結局、子供の頃には「一番ならない」と思っていた寿司職人になった。28歳から板場に籠って修行をしていたが、やがて郊外に回転すしやファミリーレストランなど、いろいろ店ができはじめた。これからは寿司屋だけでは厳しいなと思っていたところ、90’年代のアメリカで過ごしたときにずっと気になっていたスペシャルティコーヒーショップ、つまりスタバなどが次々に上陸してきて爆発的な人気に。そこで、事業の多角化を目指して、33歳くらいのときにタリーズコーヒーのフランチャイズに加盟した。当時は東京ローカルでの直営店だけだったので、僕らが日本におけるFC1号加盟企業となった。

 九州パンケーキは、九州各県から素材を集めて作ったホットケーキミックス。台湾やシンガポールにも店を出していて、来年香港にも出店する。産地や工場を訪ねながら、毎月九州各県をぐるぐると回遊しているうちに、本当に僕は九州しか興味がないんだということに気づいて、「九州以外はどうでもいい…」と(笑)。そんな思いで「九州バカ」という本を書いた。

 木下:1998年、高校1年のときに早稲田の商店街に携わったのが縁で、夏休みや冬休みに、全国の商店街に住み込みで携わった。10年前から熊本で不動産のオーナーさんたちと、複数のビルの管理業務をやっている。最近は都市経営なんかに接触することが多くなったので、どこか都市をサンプルにして、150年間で都市がどう発展していくのかサンプルにしようと、今年「福岡市が地方最強の都市になった理由」を書いた。

 福岡の人たちに、「お前福岡出身じゃないじゃないか」と言われるかと思ったが、そうでもない。民間の試行錯誤を行政がサポートしていく「民間主導・行政参加型」という、まれな施策が繰り広げられてきたのが福岡だ。

福岡市は九州への「送客」を

 木藤:「福岡市が地方最強の〜」だが、前半にはずっと福岡の良いところが書いてあるが、最後は示唆を含んでいて、「今日は最強でも明日は最強とは限らない」と。九州を語っている中で、村岡さんは福岡市の存在をどう見ているか。

 村岡:福岡は輝きを増している。でも、福岡の経済界が発信する”九州は一つ”と言う言葉には「福岡の傘の下で一緒になりなさい」と言っているようで、少しだけ尻のすわりが悪い感じがする。福岡市は自他ともに認める九州のキャピタル(首都)。福岡は輝き続けないといけないが、他の都市のことを意識しておらず、自分がどう輝くかしか考えていないようにも感じる。誘客だけでなく「送客」を含め、九州の全体最適を福岡が考えるようになったら、九州が輝く。

 木下:かつては福岡県内でも北九州のほうが伸びていた。半世紀ほど前の市議会の資料を見ると「福岡市は政令指定都市になれないのでは」とも言われていたが、後追いで伸びていった。そして今はトップだ。ただ、気になるのは福岡の人口は2035年ごろまでしか伸びないこと。さらに福岡の中心企業は福岡だけで産業をやっているのではない。情報関連企業も、インフラも含めて「九州全体が細る」ことへの次なる発展戦略がいまいち見えない。

 北海道では、札幌は「吸う」ところがなくなってつらくなっている。九州全体の人口が減っていく、ということを考えた都市戦略が必要だ。

 木藤:福岡の都市戦略と九州の将来は密接に繋がっている。「人口減少」という点についてどう考えるか。

80人超が参加し、会場は満員だった

 村岡:例えば、福岡の金融は九州全体をマーケットと本気で捉えていない。農業もそうだが、「隣県を攻めてはいけない」という不文律のようなものがある。海外マーケットに目線を広げれば、もはや国家間のイデオロギーを超えて、一方で都市と都市が直接繋がるエリア連携の時代となった。そんな時代に、九州内で基礎自治体がつまらない誘客合戦をしていてもしょうがない。福岡は九州エリアのキャピタルとしての矜持を持って、全体最適を考えるべきだと思う。

 自分は「九州は独立せよ」と冗談で言っているが、これは九州内にこもってビジネスをしろというのではない。「九州にしかない」から買いたくなるし、「九州は楽しそうだ」と感じれば人は来る。また、「九州なら儲かる」と感じれば企業は集まってくる。つまり、九州に閉じるとは、ここにしかない地域の魅力を顕在化するということ。「閉じることの開放性」を生かすということ。地方のいいものを東京で売る、というこれまでの方程式に頼るのではなく、まずは1,300万の人口を有する九州全体のマーケットを意識すれば結果的に売り上げが2倍3倍になる。その上で、「九州で愛されている」という付加価値を手に入れてから、マーケットである東京と対等な関係においてビジネスをすべきだ。

 木藤:外から九州を見ると、どんな特異性がある?

 木下:日本の地方の農業は、飯を食えなかった時代にアジャストされている。「安く、たくさんつくるモデル」でみんな疲弊して、これが今の地方農業を良くしてない。東京で熾烈な戦いやって価格競争に巻き込まれている。

 多くの消費者にとっては、食べるものは九州産でも北海道産でも、食べられればいいし、下手すると外国産も同じ扱い。東京では今(編注※イベント開催当時)、サンマ祭りがあってサンマをタダで配っているけど、不可解なイベント。タダでサンマを配って、誰がハッピーになるのか。東京のスーパーで、人々は「どこ産」を比較して買わない。選んで買うものではない。「気仙沼産だよ」と言ってタダで配っても、(もらった人は)どこの産地か興味がない。

 そういうことに対して地方の人は「ふざけんな」と言えば良いが、まじめだから言わない。すると九州で売られているものが、東京では同じ値段で売られない(もっと安くなる)。一方、フランスの輸出を見ると、地元では安いが、日本に来るとぐっと値段が上がる。シャンパンは3分の2は地元で消費される。地元に安くておいしいものや、珍しいものがあるからみんな出かけていく。シャンパーニュのメゾンが集積するエペルネーは、フランス国内でも、一人当たり平均所得が一位になるくらい高い。

 日本の話に戻るが、日本は工業化の考えを150年間引きずっている。そうではなく、いかに付加価値を上げるか、あるいは厳しいレギュレーションを守らないと地元でも許可されないとかしてみるのはどうだろうか。閉鎖することによる開放性。閉鎖することで価値を高めるやり方があっていい。

 村岡:日本の流通は、全国での価格の均質性を求める。全ての商品が地元とマーケットで同じ価格で売られるべきだという考え方はおかしなこと。九州に閉じて、ここでしか買えないという付加価値を手にすることが先。その上で、誰もが欲しいと感じれば、マーケットである東京では2倍で売られていても、それは正義だと思う。

 木下:多くの人が集まるところにモノを集めることが慣習になり、いつの間にか業界のルールみたいになっている。農業は従事者が少なくなっていると言われているのに、作る方が儲かる仕組みに変えようという動きがない。

「アジア」意識すれば中心は沖縄

 木藤:生産と消費という話になったが、福岡は「アジアの玄関口」を自任している。台湾で店舗を展開するという実践の中で村岡さんが感じるものは。

村岡浩司さん

 村岡:アジアを見据えて事業をしようと思ったら、まずは福岡は一番やりやすいと思う。インスタで検索するとき、「北海道」と「九州」では北海道のほうが7倍くらい多くヒットする。「九州」はそれだけ少ない。横文字で調べてもそうで、「Hokkaido」が10倍くらい多くヒットする。しかし、悲観することはなくて、「福岡」で検索すると、今度は福岡の方が北海道の3倍くらい多くヒットした。つまり、九州イコール福岡と言っても間違いではない。

 しかし僕は宮崎に住んでいて、大多数の人は、同じように九州の小さな街にいる。福岡で無い他の都市ではどういう戦い方をすればいいのか?もともと単一エリアでの価値観がある北海道を例にすればわかりやすい。北海道には「酪農」という絶対的な価値がある。帯広のケーキ屋さんがおいしい名物商品をつくって、「北海道〇〇」と銘打てばちゃんと闘える。「北海道」リージョンの価値がわかって要るからたくさんの名物が生まれる。

 じゃあ九州の特徴はなにか。文化、人、品種の多様性だったりする。多様性って表現しにくい。だから「九州」という一つの島と捉えてブランドをつくろうと思っている。九州パンケーキというブランドをきっかけにして、この島を代表するような「九州ブランド」をつくろうというる考え方でやっている。

 また、メッセージをどこに届けるかということを意識するのは重要。日本国内や近隣アジアでは、「九州パンケーキ」に設定してブランディングしているが、これは(アジアより)もっと遠い米国や欧州では、「宮崎パンケーキ」では勝てないかもしれない。もっと高い抽象度が必要で、例えていうならば「JAPANパンケーキ」じゃないと勝てないかもしれない。ローカル、つまり地元の概念を宮崎におくのか、九州におくのか、ジャパンにおくのか、そればビジネスのスケール感と届けたい対象によって自在に変えて行く柔軟性が必要。

 木下:福岡が「アジアの中心」と言うときは戦前の流れが強い。朝鮮半島や「満州」を見ると確かに中心だが、でも東南アジアまで含むと、福岡は端っこ。そういう意味では、次は「沖縄」が来ると思っている。

 大きな市場である台湾を見たときに、福岡単独では危ない。少なくとも沖縄との関係を見直して、つながりを強めるべきだ。アジア全体の成長を呼び込んでいるのは沖縄。USJも沖縄北部の開発を進めている。

 片道3時間くらいは「国内感覚」の時代。3時間圏内には3億人いる。近接したところにも、マーケットはある。そこに九州の多様性を打ち出せれば面白い。

 村岡:沖縄は空港の滑走路が増設される。しかも24時間空港。沖縄への投資がじゃんじゃん来始めているのは、2020年以降を見据えてのことだろう。

 木下:多様性、という点では、北海道が九州のように分割されていたら違っていた。九州はよくも悪くも分散。みんなばらばらで県庁所在地があり、多様性をうまく担保できている。それを組み合わせられるのが九州の強いところだ。

 村岡:「中小零細」の私の会社は、どの分野で圧倒的1位になりたいのか、という話。宮崎だと小さすぎる。2300万人くらいいる台湾を入れて、山口も入れて、沖縄も仲間に入って、合計4000万くらいのマーケットで1位になればと思っている。一生懸命やってきて、ようやく勝てる道筋が見えてきた。

九州に息づく「ユナイテッド感」

 木藤:木下さんの「福岡市が地方最強の〜」は、都市経営のメソッドを説いている。そこに村岡さんが言う九州(は一つ)という動きが進むとするなら、具体的にどういう流れがあるだろう。

木下斉さん

 木下:今、道州制の議論は廃れているが、経済から進めてしまうという手はある。経済圏として統合が進んでいく、そのあかつきに、行政の統合が進むのではないかと思う。東北に行くと、山形市なんかは「仙台市山形区」のようになっている。従来の県や市町村の区分が、経済から見ると適合していないケースは多い。いい加減で何とかしないと。「県が違うからできない」という話ではだめだ。

 村岡:四国は。

 木下:四国は四国内でまずまとまらないという問題がある(笑)。

 木藤:九州の仲の良さは甲子園を見ると分かる。「九州勢」が負けると悲しむ。

 村岡:宮崎代表が負けると、自分は次は鹿児島を応援する。それは関西では(たぶん)絶対、ない。サッカーの日本代表選出のニュースでも、福岡のテレビは「九州から何人が選出」と伝える。これも他の地方ではないだろう。九州に「九州人」という考えがあるのではないか。東京の飲み屋で、偶然隣の席から九州弁が聞こえてきたら「飲もう」となる。そんな雰囲気が九州にはある。

九州の”首都”とも言える福岡市。「地方最強都市」の明日は…

 木藤:村岡さんの「九州をつなぐ」という発想につながる。

 木下:九州は明治維新前夜でも、海外との事業や工業化をやってきた歴史がある。各藩の地域商社が海外を目指した時代もあった。そして日本に戻ると「お前のところはどうなの?」とやっていた。そのころから九州には「ユナイテッド感」があった。

【後編】地方創生の肝は「平均所得向上」 衰退を生んだ“偉い人“の話は聞くなへ続く


<次ページ:3人のプロフィール>

村岡浩司さん
木下斉さん
木藤亮太さん
ADGLAT




特集 qレポートの最新記事

そもそもqbizとは?

Recommend

ランキング

Recommend

特集 最新記事

コラム 最新記事