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qBiz 西日本新聞経済電子版

地方創生の肝は「平均所得向上」 衰退生んだ“偉い人“の話は聞くな<最強の福岡で「九州バカ」論>【後編】

2018年09月20日 03時00分 更新

記者:石田剛、岡部由佳里、福間慎一


 「九州パンケーキ」を国内外で展開する村岡浩司さん、「福岡市が地方最強の都市になった理由」を著した木下斉さん、宮崎・日南市の油津商店街の再生を手掛けた木藤亮太さんの3人を招いたqBiz主催のイベント「地方最強都市・福岡で考える『九州バカ』論」。福岡市のコワーキングスペース「DIAGONAL RUN FUKUOKA」を会場に、縦横無尽に展開したトークの後編をお届けする。(長いですよ!)
前編はこちら

(左から)木藤亮太さん、村岡浩司さん、木下斉さん

(前編から続く)
「補助金ランボー・怒りのアウガ」

 木藤:木下さんの本では、「どんな困難でも最後は笑顔でやりきる」ということが書いてある。精神論ともいえる。福岡の本を書いたのは、そういうところに引かれたから?

 木下:暗いと、そういう話ができない。西日本は明るい話が比較的たくさんあって、飢饉などで苦しんでいた江戸中期以降から明治初期くらいまでは東北は本当に大変で、悲しい話がたくさんある。雪も降る。そういう意味でも、西日本は恵まれている。

 村岡:問題なのは、これまだまちづくりや「地方創生」の現場でやってきたが、そこには毎年「成功事例」が集められる悲哀があること。それが中央でカタログ化されて、そのカタログに結びつけて政策化されて、「こうやれば補助金が出ますよ」となる。その成功事例のプレーヤーは、街づくりの「ヒーロー」になる。

 でもそれが10年たつと方法論が変わってうまくいかなくなる。そのときになって、当時の成功事例がやり玉に挙げられる。

 木下:青森の「アウガ」行ったことある人います?(注:アウガは青森市などが市街地活性化を目的に、JR青森駅前に開発した複合商業ビル。開業当初から客足が減り、昨年春に営業を終了した。今年1月に市役所の窓口機能が移転)

 木藤:アウガ、映画に例えると…という話が。

 木下:補助金を使えるだけ使って、最後は倒れた。全て撃ち尽くして、最後は爆発した「補助金ランボー・怒りのアウガ」と僕らは呼んでいる。

 「成功例だ」と祭り上げられると、成功に見せないといけなくなって、補助金も使えるものを探し尽くして、使いまくる。そして底をつきたときに「死ぬ」。アウガは、国が2005年に、富山の別のケースと合わせて「成功事例だ」といった。そのときにアウガのキャッシュフローは厳しくなっていたが、それを国交省は見ていなかった。

 そしてそれをまねた茨城が同じような建物を建てたりした。僕は「墓標シリーズ」というレポートを出している。だれも失敗事例集を書かないから。

 木藤:まさに「墓標」。僕らが言いたいことを言っている。

 木下:国が何百億という金を出しているから、都合のいいときだけ成功事例と言って、やばくなってからその理由を出さないでいると、第2第3のアウガが出る。地方の都市は中央官庁に「消費」されている。後には何も残らない。地方もしたたかに舵(かじ)を切らないといけない。

ノスタルジック「活性化」に別れを

 村岡:日南では5万人の街の商店街再生に木藤君が来て、20軒を出店させるという「ミッションインポッシブル」だった。昔の商店街は人が多く行き交っていた。木藤さんがやったのは違うやり方だった。

木藤亮太さん

 木藤:経産省の記事で、「油津は『再生』していない」という逆説的なものがある。「再生」というと昔のよかった時代に戻るイメージ。でも自分はそれをいったん断ち切って、これから必要な空間をつくることをやった。

 正直、既存の商店街組合とのコミュニケーションは大切にしたが、決して迎合はしなかった。商店街だけど既成の商店街のイメージとらわれないことをやるために。今は、昼間行っても通行量は知れている。でも商店街に色んな関わり方を見出し、ファンになって毎週必ず来る人がいる。例えば、天神の新天町は毎日3万人歩いているが、苦戦しているところもある。これまでの商店街の賑わい指標だったものが大きく変わってきている。

 木下:人通りが多いから儲かる、ではない。

 村岡:油津では、空き店舗だった所に入ると、ITワーカーがたくさんいたりする。シュールで新しい。新しい街のあり方になりつつある。

 木藤:お店ばかりが並んでいなくても、そこに働きにやってくる若者がいる、という商店街の姿があってもいい。大事なのは、地域の課題を「商店街」という空間を使ってどう解決していくか。新しい発想への頭の切り替えが必要。

 木下:従来のやり方にもっていく必要はない。ノスタルジーで活性化を求める人がいるが、でも僕らより早く死ぬから大丈夫(笑)。

 村岡:僕はそう思ったことはないけど(笑)。九州が一つになったら土地のアイデンティティがなくなる、と言われるが、そんなことは絶対ない。その街々の良さは必ず残る。「消滅可能性都市」なんてふざけた名前を付けられているが、10年先を、過去の延長線上として考えると間違いが起きる。

 木下:都市部でやったことを時間差で田舎でやる、という流れをやめないといけない。自動運転の実証実験だって、都会よりも田舎のほうがいい。人が歩いていないんだから。モビリティの考え方も変わる。そうすると新しい産業が生まれる。それを率先してできるのはネアカ精神。まじめに暗く考えても解決策は生まれない。

 「全部都市部と同じようにする」というコンプレックスから突破できたところが伸びている。人は歩かなくても、それを逆手にすればいい。

 小倉魚町のリノベーションまちづくりの会社に出資をしている。一通り人通りは増えたけど、売り上げは伸びなかった。そしたら「人が増えて、迷惑だ」「人ばっかり増やしやがって」と言われたりした。「静かに生活しているのに、にぎわいが出ると困る」とも…。そうすると、人通りに頼らないほうがいい。それに頼るところは早く潰れたほうがいい。

トークを熱心に聞く参加者たち

「上の世代」は当てにならない

 木藤:ここから質疑応答に入る。来場者の方はどうぞ。

 :村岡さんが展開している台湾に関して。私は台湾に行ったことがない。観光客の台湾人しか見たことがない。今後台湾に行くと思うが、どういう視点で関わればいい?

 村岡:言葉が違うだけで、温かさや人間性みたいなものは九州に良く似ている。一緒といってもいいかも。歴史的にも50年間日本だったということもあるかもしれなが、大陸的でありつつ、日本の教育の土台とかにも共感を持っている。九州にとって、一番親和性が高いのは台湾だと思っている。

 距離感も島の大きさも、博多の位置に台北があって、南に鹿児島にあたる高雄があって、東の台東と宮崎は貧乏(笑)。今は台湾中の小さい小学校回ってパンケーキを作って、九州を紹介している。最近は「何でうちに来ないのか」と言われるようになった。本当に、よいパートナーになれる地域。

 木藤:台湾に展開するときに、気をつけることは?

 村岡:「日本から来てやった」みたいな態度はすべからく失敗する。九州パンケーキが生き残っているのは、向こうにどう貢献するかをやっているから。

 地方創生で言うと、一方通行は一番たちが悪い。こっちが受け取るものと、向こうが受け取るものがあるかどうか。感情か経済か、どちらで設計するのか考えないといけない。

 :自分は元々九州の人間じゃないが、大学で教育の仕事している。福岡は良い場所だと思うが、大学卒業後も九州を出たくないという学生が多いのは、これからを考えると危ないなと思っている。「福岡、九州が住みやすい」ということは、本来は外に出ないと分からない。そのポジションは外に出て分かる。ずっと大学卒業して居続けると居心地はいいが、競争力がつかない。人材が育たないと、衰退の道をいく気がする。どう考えるか。

 村岡:(福岡市以外の)地方はもっと深刻で、小林市では平均年収が250万円を切っている。延岡が255万円、宮崎市が290万円ぐらい。

 教育の現場には、「地元から人を出さないように」という国の政策が大きく反映されている。大学にいっている子はまだ良いが、高校生なんかは地元の名士とマッチングさせて就職させようとする。年間所得240万円の街で「この街はいいぞ、残るともっといいぞ」と言われても、その後誰も責任を取らない。この先、今ある企業の8割はなくなるだろう。まずは九州の平均所得を、12ポイントくらい離れている全国の所得に少しでも近づけることが大事だ。

 木下:今は地元で残ろうとしても、その人たちが次の世代への産業をどこまで作っていくことができるか。いい意味で、上の世代をあてにしないことが重要。今の福岡でも、どこまでできているか問わないといけない。間違いなく住みにくくなる。福岡は都市の名声が高まる中で、これまでにはない投資が入ってきている。すると、これまではそこそこ安い賃金でも暮らせたのが、郊外に出ないと住めなくなったりするかもしれない。成長都市ゆえのジレンマだ。「地元だけでいけるよね」という価値観は、次の世代にはもってほしくない。

 だいたい、「田舎暮らしがいい」という地方創生のプロパガンダみたいなのがあるけど、本当に地方が良かったら、人は出て行かない。地域活性化にはまず、所得向上をベンチマークとして入れないといけない。

地方創生の肝は「平均所得向上」と3人は指摘する

 村岡:地域が、「稼ぐ」ということを真剣に考えることから逃げている。

 木下:敢えて東京、いわゆる「中央」をうがった言い方をすれば、地方は貧乏な方が都合がいい。「金くれ」と言って中央に来てくれるから、言いなりにできる。その構造を脱却するには、いかに地方が自分たちを「高く売るか」だと思う。

 、自分は歩くのが好きで、九州内ばかり歩いている。地域の見方は歩いて見て好きなところを探す。高千穂が好きで、田植えに行ったりしている。3人が地域を見るときのスタイルと視点は。

 村岡:地域は、「面白いやつ」がいたときに面白くなる。それが全てかなと思う。九州はどこにもおいしいもの(や自然)がある。だから「人」ですかね。最初に出会った人の印象が、地域を左右する。

 木藤:確かに。油津に仕事で(初めて)行ったときは商店街自体はどうしようもない状態だったが、まちの人たちが「かつてのまちの顔、商店街をなんとかしたい」という熱を持っていることに可能性を感じた。

 木下:自分はいろんな所に行ったときに、若い人とかが集まっている「イケてる店」に行くようにしている。儲かっている、という店に。どんな所にも、儲かっている所はある。街中のバーとか山の上のパン屋とか。逆に言うと「地元の人が行ってない店」はやばい。

 街の偉い人はよく「うちの街にはいいやつがいない」と言うが、それは自分にとって「都合のいいやつがいない」だけ。「偉い人」がうまくいっている店に足を運んで、マーケットを見ている街はいい。マーケットセンスのない「偉い人」がセンスのある若い人を叩くところはうまくいかない。

 衰退している地域の「偉い人」は、その衰退をつくった人。その人の話を聞いたらいけない。
(完)


<次ページ:3人のプロフィール>

村岡浩司さん
木下斉さん
木藤亮太さん
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