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【こちら あなたの特命取材班】(2)職人と働き方改革と どこまでが修業、労働か

2018年10月16日 03時00分 更新


  • かつて長時間労働の慣行があった新聞社でも、働き方改革は進んでいる

  • 職人の働き方改革をテーマに書いた8月28日付朝刊記事(記事は本紙ホームページで読めます)

 きっかけは、特命取材班に寄せられた1通のメールだ。「働き方改革」が叫ばれている中、早朝から深夜まで働きづめの「ブラック職場」があるという。名指しされたのは、スイーツファンに名の知れた福岡市の洋菓子店だった。

 メールを寄せてくれた店関係者によると、パティシエは月130時間超の残業が常態化し、繁忙期はロッカールームで寝泊まりを強いられることもある。取材を進めるうち、複数の関係者から同様の証言を得た。8月、真偽を確かめるために直撃したオーナーは、悪びれた様子もなく「職人を育てるため」と言い切り、自らの過去を語り始めた。

 海外での修業時代、閉店した店に遅くまで残り、菓子作りにいそしんだ。売れ残りのケーキは同僚と競って食べ、味を研究した。そうして腕を磨いたという。「洋菓子でもすしでも、いい店はみんな一緒。職人はタイムカードじゃ管理できん」

 同店では、労災事故を報告せず、労働基準監督署の摘発を逃れるための口裏合わせが行われていた疑いもある。それは論外だとしても、長い時間をかけて技術継承する職人の世界に、働き方改革はなじむのだろうか。

      ■

 オーナーの話を聞くうち、十数年前の私自身の駆け出し時代を思い出した。

 かつての新聞社も、「ブラック職場」だったかもしれない。昼間は取材をこなし、夕方から取材先の自宅を訪ねる「夜回り」へ。その合間に必死で原稿を書いた。帰りはたいてい午前さま。休みでも事件があれば呼び出される。果ては「おれの新人時代は会社に住んでいた」と豪語する先輩までいた。そんな日々を重ねるうち、次第に「記者」になっていくものだと教わった。

 生きのいいネタを集め、記事に仕立てる。「ニュースの職人」とも言える新聞記者の職場にも働き方改革の大波は押し寄せる。編集局で、あの頃のような長時間労働はなくなりつつある。

 その代わり、短時間で効率よく記事をまとめなければならない。特ダネ探しに駆け回り、原稿と格闘する記者稼業の在り方も見直しを迫られている。

 働き方改革の議論が深まった背景には、新入社員が過労自殺した電通の違法残業事件やNHK女性記者の過労死があった。長時間労働による悲劇は、決して繰り返してはならない。

 ただ、業務のための自己研さんと労働の境目はあいまいだ。どこまでが修業で、どこまでが労働か−。そんな議論なしに改革が進めば、やがて失われる知恵や技術があるかもしれない。

 取材の帰り、洋菓子店でケーキを買ってみた。かわいい見た目に、上品な甘さ。パティシエの職人芸に敬意を払い、じっくりと味わった。

社会部記者 山下真 

 やました・まこと 福岡市出身、2003年入社。筑豊総局や唐津支局などを経て16年9月から現職。原発や公害問題を担当。38歳。

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