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元記者ピロシの醤油屋今日談

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米糀とものづくりの楽しさの原点 醤油屋今日談(23)

2018年11月16日 03時00分 更新

記者:川崎弘氏


  • 4日がかりで完成した米糀をほぐす同僚。この時、出来栄えが初めて分かる

  • 糀菌がついた米。綿のような白いフワフワが糀菌。触るとやや湿った感じがある

  • 川崎弘(かわさき・ひろし)氏
    1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。



 冬の足音が日に日に近づいている。前の会社では、室内でパソコンに向き合うことが多かったが、今は室内と外が半々なので、温度や湿度の変化に敏感になった気がする。

 最近、よく教わる仕事の一つに米糀(こめこうじ)づくりがある。直に目にしたことがある人は少ないと思うが、米味噌や合わせ味噌の材料の一つで、最近人気の甘酒の原料でもある。

 蒸した米に糀菌をふりかけた後、丸二日近く寝かせながら、米一粒一粒に手作業で糀菌を行き渡らせる。うちでは一度に180Kgの米を仕込むため、なかなかの重労働だ。

 この作業で欠かせないのが、温度と湿度の管理。常時、気温25度以上の部屋を湿度ムンムンな状態にして、山のような蒸し米を冷やしたり、こすったりするが、糀の付き具合は外気の湿度に影響を受けやすい。

 うまくできると、噛むと栗のような味(人によってはバナナのようなとも)が口の中に広がるが、うまくできないと、パサパサして旨味が乏しい仕上がりになる。温度も湿度も高い夏場は糀が広がりやすいが、ここ1カ月ほどは、作業中に手に伝わる米のしっとり感が徐々に弱まり、水気が抜けて固くなる米が増えてきた。

 乾燥している日は、室内に加湿のための水を通常より多めに撒くが、糀菌は目に見えない(大きさは0.003mmほど)。その上、雪化粧のような白いものが米粒の表面に付着する(昔の人は、これを花が咲いた様子に例えて「糀」という字を生み出したらしい)のは終盤だ。なので、出来栄えは最後まで分からない。糀がまったく付かないことはまずないが、「失敗する」かもというスリルはいつも付きまとう。
 
 でも、だからこそ面白い。単調な仕事は一度覚えると、あとは繰り返すだけになるが、米糀づくりは、米の研ぎ方、蒸し方、冷やし方、外気の温度、湿度などいろんな要素が絡み合うので、問題なくできた時はホッとする。

 それは、誰かに評価されるとか、お金を儲けるとかではない、「ものづくり」の単純な楽しさなのだと思う。天候や季節、かなり大袈裟に言えば「自然」と向き合う仕事だからこその喜びと言えるかもしれない。冷暖房完備の室内ではまず味わえないと思う。

 これから冬本番。盆地である日田の冬は寒く、空気も乾きやすい。外仕事が体にこたえる時期だが、それも季節の移ろいと思いつつ、やりすごせたらと思う。

 まぁ、そんな甘くないと分かってはいるが。

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