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元記者ピロシの醤油屋今日談

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値上げの春。秋には消費税増税。商品力を問われる季節がやってきた 醤油屋今日談(31)

2019年03月08日 03時00分 更新

記者:川崎弘氏


  • 商談会に出品中のうちの会社のブース。価格設定が難しい時期になりそうな予感

  • 川崎弘(かわさき・ひろし)氏
    1980年、佐賀市生まれ。2003〜17年、西日本新聞の記者として事件、経済分野などの取材・執筆を手掛ける。17年10月、妻の実家である大分県日田市の醤油・味噌製造会社「まるはら」に転職。14年ぶりに新入社員に。ロック、カレー、日本酒好き。



 「アベのせいでロクなことはない」。小さな飲食店を営むお得意さまの嘆きである。

 庶民の実感とは程遠いと言われて久しいアベノミクス。この店主は、渋い業績を打開すべく50円の値上げを決断したところ、常連客がパタッと来なくなったらしい。「何のためにやってるのか分からんくらいしか利益が出てない」と焦りは深い。

 その原因が果たして政治の責任なのかは分からないが、醤油配達の合間の立ち話だけに深入りするわけにもいかず、「うちも厳しいけど、お互いがんばりましょう」と返すのが精一杯だった。

 世間は「値上げの春」らしい。今月以降、全国流通している大手企業の牛乳やアイス、鯖缶、ジュースが値上げされると日経新聞で読んだ。今年は、秋に消費税率の引き上げが予定されているが、食品は税率が8%で据え置きされるので、特にこの時期に集中するのかもしれない。

 昨年、うちの会社でも、運送会社の値上げに伴って、通販の送料を値上げした。遠方のリピーターさんから電話注文が入る度に、「今回から送料が50円上がりまして…」と説明する羽目になり、なんとも忍びなかった。

 日経の記事には「値上げが受け入れられる商品とそうでない商品の差は明確だ」と気になる断定調の一文があった。メーカーが値上げをした食品の中には、スーパーなど店頭での価格が上がったものと、横ばいのままのものがあるという。

 詳しいことは書かれていなかったが、メーカーは値上げに踏み切ったものの、販売数量の落ち込みや消費者の印象悪化を避けるために、店頭では値上げが行われず、結果的に利幅が小さくなってしまう商品があるようだ。パンはその傾向が強いらしく、低下した利益率の分は、メーカーか小売店が涙を飲んでいると思われる。「ブランド力や商品力が値上げの成否を分ける」と書かれていた。

 かくいう、うちの会社でも、これから値上げは大きな課題になりそうだ。

 原材料、人件費、資材、運送費などが上昇する中、一定の利益を維持し、事業を存続するには、価格に転嫁するのが基本ではあるが、お客さまがより安い商品に流れてしまうリスクと背中合わせ。一筋縄ではいかない。

 実際にどのような手を打つかは、大手さんや中堅・中小企業などの動きを見ながら、決めることになるかと思う。現段階では、何も決まっていないどころか、検討すら始めていないが、醤油の消費量は長期減少傾向にあるだけに、厳しい判断になるのは確実だ。

 価格の話は、身近なようで結構奥が深い。稲盛和夫氏の「値決めは経営」という言葉の通り、原価、戦略、会社の立ち位置、競合の動き、景気の見通しなどが凝縮された数字なのだと最近になって気付いた。

 例えるなら、値上げは、うちの商品力やブランド力を消費者の皆さまに判定して頂く試験だと思う。本音を言えば、あまり受けたくないが、しばらくは受験生のような気構えを忘れないようにしたい。

 さて、隔週で1年3ケ月続けてきた当コラムも、次回で最終回。最後らしく、転職をしてからこの間で感じたことや転職した意義をあらためて振り返りたいと思います。

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